陸上

『一瞬の風になれ』(佐藤多佳子)をまた読み返している。

 

もちろん最近読んだ『風が強く吹いている』(三浦しをん)もとても良かったのだけど、『一瞬の風になれ』は私には別格の印象がある。

同じ陸上でも短距離と長距離(駅伝)という決定的な違いがある。

そして主人公たちが高校生か大学生か、これはかなり多いな違いだ。

 

きっと私自身高校時代とても楽しかった記憶があるので、それもきっと関係しているのだろう。

高校時代の3年間、たった3年間なのに、それは人生で紛れもなく、青く、広く、遠く、何にも変えられない時間。

こどもでも大人でもない、且つ、これからの自分に希望を持てて夢も見れる。

 

高校時代を扱った小説はあまり読まなくなっていたけど、高校時代でしか書けない、表せない空気が確実にあって、それはたくさんの人をその時代に引き戻し魅了する。

 

好みはあれ、両作ともこれからの人生でまたふと読み返したくなることがあるだろう素晴らしい作品だ。

 

さて、今まで意識的に陸上を扱った作品を読もうと思ったことはなかった。

『一瞬の風になれ』を読み始めたのはあらすじに興味を持ったわけではなく、本屋大賞の受賞作品だったからだ。

こう思うと”本屋大賞”というタイトルにはすごい影響力とインパクトがあることがわかる。

そのあとあらすじというよりはレビューの星の数を見て、間違いなさそうだ、と期待を胸に読み始めた。

 

文体というよりは内容にすぐに入り込み、そもそも3部作で長い小説なのだけど、特に第3部に入ってからは「まだお終わらないで」「まだ読んでいたい」という惜しい気持ちで読んだ。

そして陸上そのものに興味を持った。

 

『一瞬の風になれ』はドラマ化か何かで映像化されているようだが、原作を気に入ったものの映像作品はよほどのことがない限り読まないことにしているので、本物の陸上の試合の映像をYouTubeで検索して見た。

多田選手、桐生選手など、ニュースで取り上げられる選手のことは知っていたが、その本を読んだあとでは、その選手と記録だけではなく、来歴やレースの展開などもきちんと理解したくなるから不思議だ。

 

私自身は体育全般そんなに得意でもなく、特に陸上競技が成績の一番のネックだったこともあって、陸上競技と聞くだけで若干の拒否反応がでる。

長距離はまだ根性でなんとかカバーできるにしても、短距離なんてもうどうにもならない。

一生懸命走っているつもりなのに、怖い鬼体育教師(教務主任のおばさん)に「一生懸命やってないのがわかる!」怒られたのは忘れられない。

走りきった感覚なんて未だに持ったことがない。

陸上部を見ては、あんなに速いってどんな感覚なんだろう、と未知の感覚に想いを馳せたものだ。

 

陸上、それは自分とは遠すぎて、完全な憧れでしかない。

走ることはできるが、速く走ることも、その感覚もわからない。

遠い雲の上のものは、美しくしか見えない。

 

陸上競技に打ち込む友人を見て、高校時代は「好きなものはそれぞれなんだなぁ」としか思わなかったが、当時もっと話を聞いてみればよかったな。

競技場に応援にいったら、友達とも”陸上”とも精神的な距離が近くなっていたかもしれない。

 

それでも自分で挑戦しようとは思わなかった可能性は大きいが、世界はもっと広がっただろうな。

 

オリンピックの4継、選手がいい結果が出せますように。